身近にあふれるRFID、その歴史と外郭。
ここ1~2年で、アパレル業界の某SPAで話題になった「簡単便利で素早く会計できる」セルフレジ。
このレジの仕組みを支えているのがRFIDという自動認識技術です。RFIDという言葉を、これで知ったという方も多いのではないでしょうか。
また一歩街に出れば、自動車の運転にはRFID技術のスマートエントリーシステムで、解錠もエンジンの始動もOK。
ついでに免許証も含めて車周りはRFIDだらけです。
バスも鉄道も交通系ICカードPiTaPaにICOCA(筆者は関西在住なので、Suica、PASMOじゃないんです・・・)。コンビニやスーパーマーケットに入ればnanacoやWAONをはじめとする電子マネー等々、海外旅行に行くならパスポートにだってRFIDは仕込まれています。
そして会社の入退室にICチップ内蔵のIDカードが必要だったり、そう言えば自販機でタバコを購入する際には必須の成人識別taspoだってRFID。もちろん多くの人が肌身離さず身につけているスマートフォンにもRFIDは忍んでしますよね。実は、何気なく使用している身の回りには結構な頻度でRFIDが利用されているんですね。
RFIDとはradio frequency identificationの略称で、無線周波数識別と訳されています。この「気がつけばいつの間にか」のRFIDという自動認識技術って、いったいどれくらい前に開発されていたのでしょうか?
始まりはバーコードより古く
まずはIT、つまり情報通信技術という視点から。電波ではなく煙に情報性を持たせ、遠距離間での情報通信を可能にしたものとして、古来から狼煙が使われていたことは周知のことですよね。燃やす物によって煙の色を変えられますから、煙の色の組み合わせや燃やす順序等で、結構たくさんの情報を伝えられたようです。色や順序という符号化(エンコード)の概念が太古から存在していたことに、改めて驚いたのは筆者だけでしょうか?歴史はグッと巡って、RIFDの萌芽は1935年。自動認識とは違うのですが、radio frequency identificationの日本語訳である無線周波数識別という概念での技術開発は、ここから始まります。
その名称はIdentification of Friend Or Foe system(IFF:敵味方識別装置)。
Friend Or Foeという文字通りの軍事的必要性から生まれたようです。航空戦力、つまり軍用飛行機が軍事力に比重を増していた時代ではあったのですが、当時の航空戦における索敵の手段はパイロットの目視による敵味方の識別でした。となると、視力で判別出来る距離は自ずから知れたもので、しかもそれが夜間などであれば、更に至近距離まで判別がつかないということになってしまいます。超緊張下での危機回避意識から、味方同士での戦闘という最悪の事態も起こりかねません。同士討ち回避という軍事的必要性から、1935年、イギリス空軍が無線による敵味方識別の研究に着手します。数年遅れた1941年、ドイツ空軍もエールストリング敵味方識別装置と呼ばれるものを戦闘機に搭載しています。どちらもインテロゲーターからの質問波を受信して、パイロット側が応答波を返信するという人力システムなので、自動認識ではありませんが、無線周波数による対象物の同定という概念はこの頃から育まれていたことになりますね。
そして初のRFID商用開発とされるのが、1966年にアメリカで開発されたEAS(Electronic Article Surveilance)。
防犯ゲートとして、現在でも多くの小売店舗で見かけるあの仕組みの先鞭です。
続いて1970年代に入ると、RFIDで車をトラッキングする仕組みや、ヨーロッパで家畜識別・追跡システムが開発されるに至ります。そこからETCの実用化と続き、21世紀を目前にしてRFID技術の標準化、そしてAUTO-IDセンターが設立されます。その標準化は2003年にAUTO-IDセンターからEPCglobalへと引き継がれて、現在の隆盛へと至る道程となります。
20世紀最後期にRFIDの標準化が実現されるまでは、ベンダーがRFIDの仕様も含め独自に開発していたので、通信方式もベンダーごとに異なっており、RFIDタグとリーダーは、セットで同一ベンダーが供給するものが使われるといった状態でしたので、バーコード同様に、標準化という壁を乗り越えることが、符号化を伴う自動認識技術において如何に普及の礎となるかを教えてくれますね。
そもそもRFIDとは
RFIDは、日本自動認識システム協会(JAISA)のHPによると「人、動(植)物、物、情報などに付加されたデータキャリアの情報を取得する自動認識(AIDC)の一つであり、カード状またはタグ状の媒体(情報担体:データキャリア)に、電波を用いてデータを記録または読み出しを行い、アンテナを介して通信を行う認識方法と定義されています。この前半部分は「情報を人、動物又は物に付加し、人、動物又は物を特定するために利用する情報担体の総称。RFID、1次元シンボル、2次元シンボルなどを表す」という日本産業規格(JIS)のX 0500:2002における10001:データキャリアの用語説明を受けてのものと思われます。
そしてそのJISの定義では、X 0500 が本当に久しぶり、2020年に改訂され、その05.01.01 においてRFIDとは、「種々の変調方式と符号化方式とを使ってRFタグの固有IDを読取り、RFタグへ又はRFタグから通信するために、スペクトルの無線周波数部分内における電磁的結合又は誘導結合を利用すること」と改められました。
なにやらややこしい言葉が並んでいますが、要は自動認識コラム第1回「自動認識って何?」で紹介したとおり、RFタグと呼ばれる、ICチップとアンテナを備えた情報担体(データキャリア)から、電波を媒介としてICチップに格納された情報を読み取ったり書き換えたりする自動認識システムと理解していただければ良いでしょう。
「種々の変調方式と符号化方式」を使ってというのは、RFIDで通信する際にリーダーライター(質問機:インテロゲーターとも言います)とRFタグ(応答器:トランスポンダー)間での通信電波のやり取りを表す言葉で、変調とは、搬送波(電波)に送りたい情報(信号)を載せて空中に発射出来る形にする際の方式のことです。そしてもう一つの符号化というのは、RFIDで交信する情報をデジタルデータに変換する方式をいいます。符号化については自動認識コラムバーコード篇の初回でも紹介していますので、「イメージができない」と言う方は、そちらも併せてご覧ください。
また、「スペクトルの無線周波数部分内における電磁的結合又は誘導結合を利用」という記述についてですが、
「意味不明?」という方にひと言だけ付け加えておきますね。
RFIDには、次項で紹介しますが、使用する電波(電磁波)の周波数帯が数種類あって、その使用する周波数によってバッテリーを持たないRFタグが応答するための電力を供給方式が異なります。電磁的結合とか誘導結合というのは、大雑把に言ってしまうと、その起電力の方式のことです。
まあ、ざっくりとですが、上記が昨今巷を賑わせ始めたRFIDの総論的な仕組みとなります。
RFIDの具体的な変調方式や符号化方式については、今後、本自動認識コラムRFID篇の中で、もう少し掘り下げてご紹介していこうと思います。
RFIDの分類-その1
使用する電波の周波数帯の違いによる分類があり、日本では
1 周波数135KHz以下をLF帯(Low Frequency:中波帯)
2 13.56MHz を使用するHF(High Frequency:短波帯)
3 920MHz帯で通信するUHF帯(Ultra High Frequency:極超短波帯)
4 2.45GHz帯のマイクロ波帯(実際には300MHz - 3GHzの周波数の電波は総じてUHF)
以上の4つの帯域の使用が認められています。
それぞれ電波の周波数による波長の違いによって、通信距離や遮蔽物に対する回折(回り込み)の程度、水分・水滴による減衰(水分が電波を吸収してしまいます)度合いが異なるので、そういった特性を踏まえてどの周波数帯のRFIDで運用するかを判断する必要があります。
RFIDとして最初に実用的な運用がなされたのは、家畜管理に使用されたLF帯RFIDだったのですが、その後、産業界ではHF帯が主流となりました。交通系ICカードや電子マネー、自動車の免許証などには、HF帯の中でもNFC(Near Field Communication)と言われる方式のRFIDシステムが使われています。
さらに近年、著しく普及し始めているのがUHF帯RFIDで、アパレルなどのブランドタグなどに利用されているのは、ほとんどUHF帯といっても過言ではありません。
RFIDの分類-その2
情報担体(データキャリア)にバッテリーは有るか無いかといった区分です。
バッテリーを持つRFタグをアクティブタグ、持たない方をパッシブタグと呼びます。アクティブタグはバッテリーを内蔵しているのでタグ自ら電波を発信するため、インテロゲーターの反射波を使用するパッシブタグと比較して、同じ周波数帯でもより長距離での通信が可能になるのですが、バッテリー切れにならないように管理することが不可欠となり、運用にはメンテナンスの手間を織り込まなくてはなりません。
他方、パッシブタグの方はリーダーから発せられる電波(電磁波)が起電力となって通信を行うので、通信距離は短くなりますが、タグ自体は半永久的にメンテナンスフリーでの運用が可能です。
そしてバッテリーレスなので、当然のことながら情報担体としてのタグコストはアクティブタグと比べて格段に低くなりますから、多数のタグを必要とするRFID運用に向いていると言えます。
次回からは、アスタリスクが主として扱っているUHF帯RFIDをメインに、法律面や技術面の骨組みなどを具体
的に解説していこうと思います。